May 05, 2011

コーデ

「コーデ」という言葉を自然に使ってみたい.ファッションとかそういうあれで使われる「着まわしコーデ」のあのコーデだ.あまりファッションに馴染みがない自分は,会話の中で自然に「コーデ」と言ってみたい.
自分でも使えそうなコーデの使い方はないだろうか.

知られていないかもしれないが,キャビンアテンダントはコーデに気を使う.
飛行機を発明したことでライト兄弟は有名だが,着回しを発明したコーデ兄弟はファッション業界とキャビンアテンダント業界以外ではあまり知られていない.
ライト兄弟とコーデ兄弟は幼馴染で親友同士だ.一方は飛行機を発明し,一方は着回しを発明.ライト兄弟は,「コーデ兄弟がいなかったら,飛行機はできなかった」と言い,コーデ兄弟は「ライト兄弟がいなかったら,着回しはなかった」と言う.飛行機と着回しは切っても切れない関係なのだ.
キャビンアテンダントがコーデに気を使うのは歴史的な背景があるからだ.ちなみに,ファッション業界の人が頻繁に空を見上げるのは,ライト兄弟に気を使っているからだ.

いきなりだが,自分が何を書きたいのかよく分からない.何なんだ.

朝起きた瞬間から激しい痛みが大腸を襲う.会社に行く時間になったが,腹痛が治まらずコーデから出られない.

倦怠期の夫婦.
夫が仕事から家に帰ると既に部屋の電気は消えている.食卓の上には冷え切ったコーデにラップがかけられて置いてある.
夫は力なくそれを見る.昨日の夕食はコーデ,今日の夕食もコーデ,明日もきっとコーデだ.もうコーデにはうんざりだ.

「これで終わりだ」
仮面ライダーコーデは怪人に向かって叫ぶ.その叫び声に応えるようにベルトのコーデがくるくると回り始めた.
仮面ライダーコーデの全身にコーデの力が溢れる.敵の怪人にポーズを決め,必殺技の名前を叫ぶ.
「着回しコーデ」
仮面ライダーコーデが放ったコーデ旋風がファッション界を吹きぬけ,そのまま怪人を貫く.怪人の胸元にオシャレなスカーフがあしらわれ,怪人が大爆発.
そして,渋谷109で着まわしコーデをオシャレに着こなす女性も大爆発.

自分でもよく分からないまま,パソコンのログインパスワードを「kimawashikoude(着回しコーデ)」に変更してみる.

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April 01, 2011

デュラム小麦のセモリナ

スパゲティの包装の原材料名の欄に「デュラム小麦のセモリナ」と記載されていることがある.「デュラム小麦のセモリナ」はイタリアの昔話に由来して記載されている.
イタリアでは誰もが知る有名な昔話だが,日本では殆ど知られていない.

むかしむかし,莫大な財産を持ち,優雅に暮らす人の良い紳士がおりました.妻には先立たれましたが,彼には美しく心の優しい若い娘がおりました.その娘の名はセモリナといいました.
娘のセモリナに母親がいないのは寂しいだろうと思い,セモリナの父親は気立ての良い女性と再婚をしました.彼女には,セモリナより年上の娘が二人おりました.セモリナは父親の再婚を祝福し,新しい家族との生活が始まること喜びました.しかし,継母は,財産を狙って近づいてきた悪い女でした.二人の娘の性格も悪かったのです.セモリナの父親は騙されていたのでした.
セモリナの父親は,継母とその娘達に巧みに遺言書を書かされ,遅効性の毒でジワジワと殺されてしまいました.

セモリナの父親のお葬式の翌日,継母は父親の死を悲しむセモリナに言いました.
「セモリナ,あなたに残された財産なんてないわよ.全て私と娘が相続したの.もちろん,法的に全く問題はないわよ.この家にあなたのいる場所はもうないの.早く出て行きなさい」
娘の一人が言いました.
「あら,お母様.それじゃあセモリナが可哀想よ.あの荒れ地をあげたらどうかしら」
セモリナの父親が残した財産には,家から少し離れた場所に僅かな広さの痩せた荒地がありました.その土地は何年も手入れをされずに放置されていました.継母は少し考えて言いました.
「そうね.あの土地ならあげても良いわね.あんな土地に固定資産税を払うくらいなら,あんたにあげた方がいいわ.何もやらないよりも荒れ地を恵んでやった方が,逆に惨めだわね.いいわ,セモリナ.あなたに恵んでやるわ.この家を出て荒れ地に行ってしまいなさい.しみったれた土地にしがみついて生きるがいいわ」
もう一人の娘も言いました.
「セモリナ,ろくに作物も育たない痩せた土地に縋って生きるがいいわ.あんな土地じゃせいぜいデュラム小麦しか育たないわね.あなたにぴったりの土地ね.パサパサでおいしくないデュラム小麦を細々と栽培するがいいわ.そして,あなたが死んで土地の栄養になるがいいわ」
継母と娘達はセモリナに向かって高笑いをし,鼻をかんだティッシュをセモリナのポケットに無理やり突っ込んで,家から追い出しました.

セモリナは荒れ地に小屋を建て,一人で土地を耕してデュラム小麦を栽培し,収穫されたデュラム小麦を売って生活しました.しかし,デュラム小麦は,他の種類の小麦と比べて味が悪くて需要がないため,収穫したデュラム小麦は大部分が売れ残り,セモリナが得られる現金収入は僅かでした.しかし,セモリナは売れ残ったデュラム小麦を使っておいしく食べるためのレシピを考えて自分で食べ,何とか暮らしていきました.
ある日,セモリナが耕していると,土の中から見慣れない石を掘り出しました.セモリナは珍しい石だと思い,石を博物館に持って行きました.博物館で鑑定の結果,その石は珍しい隕石であることが分かり,博物館が高値で引き取ることになりました.セモリナは,少しだけまとまったお金を手にすることができました.
セモリナは,この時チャンスだと思いました.セモリナは,そのお金を使って,独学で農業技術と栄養学を学び,調理師としての資格を取り,新しい農機具を揃えました.
そして,学んだ農業技術で,収穫量を増やすため,栽培プロセスを簡略化して作業効率を高めて業務を効率化,さらに革新的なデュラム小麦の栽培手法の確立しました.また,デュラム小麦用の農機具の考案もしました.数年かかりましたが,収穫量は飛躍的にアップしました.一方で,需要の少ないデュラム小麦の消費量を増やす方法も考えました.セモリナは自分で考えたデュラム小麦のレシピに改良を加え,ポスタと呼ばれる食べ物を作りました.そして,セモリナは小屋を改装し,ポスタをメインとするレストランにしました.
セモリナがデュラム小麦で得られる利益は着実に上がっていきました.セモリナは,増えつつある利益で人を雇い,誰も欲しがらないような痩せた土地を格安で買ってデュラム小麦を栽培しました.誰も好んで育てないデュラム小麦市場は小さな市場ではありましたが,セモリナがほぼ独占しました.デュラム小麦を効率的に収穫するための栽培法,農機具は,全てセモリナが特許を出願して権利を得ていました.そのため,セモリナとのライセンス契約なしに,デュラム小麦を育てることはできなくなっていました.

セモリナの活躍を聞いても継母は動じませんでした.
「あら,惨めね.どうでもいい市場を独占したところで,私達には関係ないわね.どうでもいい人間が,どうでもいい市場を独占.どうでもいいの二乗よね.惨めさが加速するわね.ああ,汚らわしい」
娘達も言いました.
「そうよ.鼻くそみたいなデュラム小麦市場を独占するのがセモリナらしいわね.鼻くそのセモリナよ」
「デュラム小麦なんて汚らわしい小麦を私達が食べることはないし,関係ないわね.汚らわしい生き物が,汚らわしい作物を育てるなんてね.笑えるわ.鼻くその鼻から出てきた鼻くそね」
継母と娘達は鼻くそをティッシュに包み,セモリナに送りました.

小麦に病気が流行したのは,セモリナがデュラム小麦市場を独占し,ポスタのレシピを改良をしてから数年後でした.殆どの小麦がこの病気に掛り,小麦の収穫に壊滅的なダメージを与えたのでした.病気への耐性があったのはデュラム小麦だけでした.小麦市場では小麦価格が高騰.殆ど需要のなかったデュラム小麦の価格まで上昇しました.一般的な家庭では,僅かな量のデュラム小麦が手に入る程度になってしまいました.
セモリナは,デュラム小麦を少しでも安く消費者へ届けるための流通路の開拓をしました.そして,売れ残りとして倉庫にあったデュラム小麦を,安い値段で直接消費者へ販売を始めました.そして,セモリナは,ポスタを改良した食べ物をパスタと名付け,レシピを公表ました.レシピは,誰でも自由に使えるようにしました.パスタのレシピに改良を加えることも自由であり,改良したレシピを自分のレシピとして公表することも自由でした.商用・非商用に係わらず,誰でも自由にパスタを作り,食べられるようにしたのです.今まで美味しくないと敬遠されていたデュラム小麦は,誰でも美味しく食べられるようになりました.
その後も小麦の病気の流行は収まらず,デュラム小麦以外の小麦は病気のために育ちませんでした.栽培される小麦はデュラム小麦に移りつつありました.しかし,痩せた土地で育つデュラム小麦は,肥沃な土地では育ちませんでした.そのため,今まで小麦の栽培に使われていた農地は,デュラム小麦の栽培には使えません.デュラム小麦を栽培する十分な農地がないため,十分な量の小麦が収穫できませんでした.デュラム小麦の栽培に適さない肥沃な土地の価格は下がりました.
しかし,この時セモリナは,広大な面積の肥沃な土地を購入しました.セモリナは,病気の流行から取り組んでいた肥沃な土地でも育つデュラム小麦への品種改良に成功したのでした.品種改良によってできたデュラム小麦は,病気に耐性のあり,栄養価が高く,さらに品種改良前のデュラム小麦よりも遥かに味は良かったのです.
セモリナは,広大な肥沃な土地で大規模な資本を投下し,デュラム小麦の栽培をしました.セモリナは,大農場で栽培することにより低コストなデュラム小麦を実現しました.そして,低価格で大量にデュラム小麦を販売することにより,高騰した小麦の市場価格を健全な市場価格に戻したのです.
セモリナは,高品質で低価格のデュラム小麦を消費者に提供し,さらに人柄の良さから人々から慕われて「デュラム小麦のセモリナ」と呼ばれたそうです.

一方,継母とその娘達は,派手な生活で相続した財産を使い果たしていました.生活に困った彼女達はセモリナに擦り寄ってきました.
「セモリナ,さすが私が見込んだだけあるわね.あの荒地で成功することが分かっていたからこそ,私があなたにあげたのよ.私には感謝して欲しいわ」
「いえいえ,お母様.お母様はセモリナを叩きだしたじゃない.それに,あの土地をあげようと言ったのは私ですのよ.少なくとも私はセモリナの味方と言えると思うけど,どうかしら」
「いやいや,二人とも汚らわしいとか,惨めとか言っていたじゃない.セモリナのことを一番心配していたのは私よ」
継母と娘達は,仲間割れを始めそうな勢いでしたが,我に返りました.
「とにかく,私達はみんな,セモリナは苦労しなければ成功しないと思っていました.だから,あんなに厳しく当たってしまったのよ.辛かったわ.私達もセモリナと一緒に苦労したかったのよ.でも,一緒に苦労してもセモリナは成功しないと思ったのですよ.だから,私達にしかできない苦労とと思って,私達は,したくない贅沢をしていたのよ.贅沢をするのは,本当に辛かったわ」
「成功した今だからこそ,私達と一緒に住むべきなのよ.分かるかしら.私達は,あなたのために辛く当り,私たちがしたくもない贅沢したのよ.だからこそ,苦労をかけた私たちに楽に贅沢に生活する権利があるのよ」
「そうよ.これで,今までのことは水に流してね」
彼女達は,未使用のティッシュペーパーをセモリナに差し出しました.
しかし,セモリナは継母とその娘達への恨みは忘れていませんでした.
継母とその娘達に最低限の生活をさせる代わりに,作業をさせました.薄い一枚のティッシュを2枚重ねて2つ折りにし,それを100組集めて箱詰めにさせました.完成したら,箱からティッシュを取り出し,一枚一枚分離させて折り目をきれいに伸ばして元に戻す.
この作業を,毎日,1日中繰り返しさせました.
そして,セモリナは自分が死ぬ間際,彼女達と和解して財産を譲るするふりをして,すべての財産を慈善団体に寄付して彼女達には一銭も渡さずこの世を去ったそうです.
セモリナの死後,彼女達は生活手段がなくなり,セモリナを呪いながら路頭に迷って惨めに死んだそうです.そしてデュラム小麦の肥料になったということです.
余談ですが,継母の名前はティッシュ,娘達の名前はペー,パーであり「ティッシュペーパー」の名前は彼女達に由来しています.

セモリナは今でも人々から愛され続け,スパゲティなどパスタの包装に「デュラム小麦のセモリナ」と記載されて称えられています.

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March 29, 2011

電子真似

電子タバコが分からない.電子タバコを咥えて吸引すると,先端のLEDが赤く光って実際に吸っているように見えるらしい.吸うとタバコの味がするのだろうか.タバコを止めようと思っている人が,我慢するためにすうのだろうか.よく分からないが,多分そんな感じだろうと思う.
ところで,電子タバコのような「電子○○」という我慢グッズというのは,他にもあるのだろうか.

久遠寺源蔵(87歳)は,一代にして世界で有数のグローバル企業を起業した経営者である.懸命に働き続けた人生にも,それが原因で生涯の伴侶を得なかったことに後悔はない.
しかし,源蔵にも寂しいと思う時がある.そんな時に,源蔵が使うのが「電子孫」だ.
電子的な孫で,LEDが赤く光る.電子的に家族愛とか,そんなやつがエンジョイできる.
電子孫にお年玉をあげたり,電子孫と遊園地にいったり.
そして,源蔵は再び仕事の鬼となり働くのだ.

電車の中で急に襲い掛かる腹痛.押し寄せる便意.どうしても我慢できない.このままでは凄いことになり,人間としての尊厳を失ってしまう.
そんな時は,スマートに「電子トイレ」で電子的に解消.使用中はLEDが光るから安心だ.
人類の夢がまた一つ叶った.

ポルトガルの近海で捕獲された「電子魚」.電子的な魚で,人類の魚欲を満たす画期的な魚らしい.急に魚欲が高まっても,ポケットに電子魚を忍ばせておけば,水族館に行かなくて済む.LEDも光るから小さなお子様にも安心らしい.
ポルトガルに新たな名産が加わる.

いろいろな意味で大変な相撲界.
この先,相撲不足が発生するかもしれない.そんな時に好角家の欲を満たすのは「電子力士」だ.LEDで髷が光るから正々堂々と安心だ.
「電子富士」と「朝電子」が,電子相撲を取る.

電子欲が高まったら電子電子で解消するのだと思う.

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March 08, 2011

馬糖黍

今まで「馬頭琴」という楽器を見たことがない.
小学生の時に国語の教科書で読んだ「スーホと白い馬」に出てきた楽器なのだが,残念ながら今まで見る機会がない.小学校を卒業してから結構長い時間が経ったのだが.
しかし,何故か馬頭琴という名前だけは憶えている.最近では,馬頭琴が実在することを疑問に思い始めている.馬頭琴はどこにあるのだろうか.

モンゴルの草原で,野生の馬頭琴の群れが草原を走る.遊牧民のスーホさんは,馬頭琴の群れを見ながら語る.
「昔はね,どこでも馬頭琴の群れは見られたもんだよ.今じゃ見なくなったよね.馬頭琴の群れが見られるのはこの辺りだけだよ」
環境破壊の影響か,乱獲の影響か,モンゴルでも珍しい動物になってしまった馬頭琴.ジンギスカンは馬頭琴に跨り戦場を駆けたと言われている.
モンゴルの草原だけに生息する5本足で走る珍獣馬頭琴.ムヒョムヒョと鳴く見るだけで不快な動物だ.

沖縄の小さな島に住む島袋スーホさんは,馬頭琴の栽培をして50年だ.
馬頭琴から採れる砂糖は,サトウキビから採れる砂糖よりも優しい甘さといわれている.いや,よく味わうと微かに甘い程度の砂糖.むしろ,殆どの人は甘さを感じないというべきか.正確には,味のない砂糖といった方が的確であろう.
昔はバトウキビと呼ばれていたが,いつの頃からか馬頭琴と呼ばれるようになったという.
島袋スーホさんはさびしそうに語る.
「昔は馬頭琴を栽培していた家は多かった.今は一人だけになってしもうた.ワシはもう,この辺りじゃ馬頭琴の甘さのような存在なのかのう」

昔,ギリシャのイカロスは蝋で固めた馬頭琴を片手に塔の上から飛び降りた.
勇気一つを共にして.

「さて,みんな集合だ.彼は今日から捜査1課に配属になった滝沢馬頭琴君だ」
警視庁捜査1課に今日から新しい仲間が配属になった.捜査員一同は期待を込めた目で見つめる.
「おはようございます.滝沢馬頭琴です.本日付で皆さんとお仕事させて頂きます.よろしくお願いします」
「よし,今日から早速働いてもらうぞ.よし,あだ名はスーホにしよう.皆,スーホと呼んでやれ.スーホ刑事を頼んだぞ」
滝沢馬頭琴,通称スーホ.後に数々の難事件を解決し,「スーホの白いデカ」として犯罪者から恐れられるが,これはまた別な話だ.

セレブが集まるオシャレなパーティー会場.
セレブ達がワイングラスを片手につまんでいるのが馬頭琴の載ったリッツだ.馬頭琴オンザリッツ.
馬頭琴の酸味がリッツに合い,ワインに合う.ポリポリと馬頭琴を噛む音が,軽快にパーティー会場に響く.セレブ達の笑顔の下に馬頭琴だ.

滝沢馬頭琴.そんな名前の友達が小学生の時にいたような気がする.

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February 28, 2011

高速に拘束

「詳しくは『○○○』で検索」や「続きはWebで」という広告がある.広告の内容を詳しく知りたい人や興味を持った人は,検索をして見て欲しいというやつだ.ネットワーク社会の現代,広告だけでなくもっと活用できないだろうか.

山本タモツ(45歳)は,久しぶりに帰った実家で見つけた日記帳を手に取る.若かった頃を思い出しながら懐かしくページを捲っていると,高校生の夏休みに付けた日記に,「高三の夏休み」で検索,の文字を発見
早速検索して見てみると,あの頃の日々が蘇る.自分の知らぬ間に記録されていた高三の夏休みの自分.自分以外に誰も興味を持たないと思うあの時の自分.甘酸っぱい思い出に胸がキュンとなり,気が付くと涙が流れている.
ありがとうネットワーク.

丸輪太郎君は,好きだった同じクラスの若林コズエさんを校舎裏に呼び出して告白.
「若林さん,実は今まで好きだったんだ」
若林さんは,はにかんで答える.
「えっと,続きはWebでね」
若林さんは恥ずかしそうに駆け去る.
ドキドキしながら丸輪君が押す検索ボタン.検索結果を辿ると,コズエさんが映った動画が流れる.
よく告白されるコズエさんは,断る手続きをネットワーク上のデータを使って共通化.合理的なコズエさんは,間違いなくデキル女だ.
丸輪君は動画の再生回数を見て涙を流すのだ.

ある病院の中の病室の一つに担当医師の指示の元,久田渋重(98歳)の家族が呼び寄せられる.渋重は朦朧としながら,ベッドの周りに集まった家族に話をする.
「ワシの遺産の分配じゃが……」
「お父さん,だめだ.まだ死じゃだめだ」
「おじいちゃん,おじいちゃん」
そんな家族に向かって渋重は繰り返す.
「ワシの遺産の分配じゃが……」
固唾を飲んで耳を澄ませる親族一同.
「続きはwebで」
そう言い残し渋重は事切れる.
親族一同がブラウザを立ち上げて映し出されたのは,元気いっぱいの渋重.渋重は,仮想空間で生き返る.
「ワシを見ているということは,本体は死んだということじゃの.じゃあ,これからはこっちが本体じゃ.ワシの遺産はワシの使いたいように使う」
そう言って仮想空間の中に消えて行く.寿命を限りなく伸ばした渋重.遺産相続するつもりだった息子達は舌打ちをする.

逃亡中の容疑者が,逃亡中にメールを受信.メールのタイトルは「続きはWebで」.
Webブラウザを立ち上げると,容疑者はその場で逮捕される.オンラインで容疑者が身柄を拘束される,近年警察で開発されたオンライン逮捕と呼ばれる技術だ.オンライン逮捕された容疑者はそのまま拘置所に転送.容疑者は高速ネットワークを使って拘置所に転送される.
「容疑者を待たせません」が合言葉の最新技術.逮捕の手続きを簡素化し,拘置所への転送まで自動化されているので,コストを大幅に削減.最新技術が,時間とお金の無駄をカットし,検挙率をアップさせる.

面倒くさいことに出会ったら,積極的に「続きはWebで」と言って逃げたい.

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February 14, 2011

埋め立て

会社のオフィスには「埋め立てゴミ」と書かれたゴミ箱がある.何を捨てればいいのだろうと考えてしまう.ゴミ箱にゴミを入れる側の人としては,捨てたゴミが埋め立られようと埋め立てられなかろうとどちらでも良い.ゴミに合った最も良い処理の仕方をしてもらえればそれで良い.なので,何をそこに捨てるのかをはっきりと書いておいてもらえればいい.
ひょっとしたら,何を捨てるのかはっきりと書けない理由でもあるのだろうか.ひとことでは説明し辛いゴミ.それならば,それで積極的に活用したい.

「埋め立てゴミ」と書かれたゴミ箱の前で涙を流す山本タモツ(35歳)さん.
タモツさんは,小さな頃から野球が得意で神童と呼ばれ,地元の少年野球団ではエースで4番で大活躍だった.そして,高校は野球の強豪校に入学.甲子園にレギュラーメンバーとして出場し,チームは準優勝.高校卒業後はプロ野球チームに入団した.
自分は野球の天才だと思っていたタモツさんだが,それは間違っていたことに気が付いた.プロ野球選手として活躍するのは,自分よりも遥かに上手い選手達.それでも,タモツさんは頑張ったが,結局一軍の選手になることもなく,二軍で大した成績を残すことなく17年が過ぎた.
タモツさんは,「こんな物があるから未練が残るんだ」と甲子園の土を「埋め立てゴミ」のゴミ箱に投げ捨てる.今年で野球選手はおしまい.来年からは,「盗塁弁当」を売る弁当屋だ.

オシャレに気を使う会社の同僚の長井シゲル(28歳)さん.
彼のチャームポイントは,長く伸ばした特徴的なモミアゲだ.ツヤツヤと光るモミアゲは,見る者の心を逆撫でする.そんな時に活躍するのが「埋め立てゴミ」のゴミ箱だ.
素早くシゲルさんのモミアゲを掴み,有らん限りの力で引っ張り抜く.のた打ち回るシゲルさんを背にしてモミアゲを「埋め立てゴミ」のゴミ箱に捨てる.
明日からは,モミアゲに心を逆撫でされることなく心安らかに働ける.職場の快適な環境作りに貢献する「埋め立てゴミ」のゴミ箱だ.

「埋め立てゴミ」のゴミ箱の前にカモメ第四小学校の小学6年生の児童が集合する.中には啜り泣く女子児童の姿も見える.先生が,児童達を前に声を上げる.
「よし,それじゃあ.みんなの思い出をカプセルに詰めたな」
啜り泣いていた女子児童は声を出し,ざわついていた男子児童はしんとなる.
「捨てるぞ.いいな.お前達は卒業してバラバラの中学に行くかもしれない.しかし,皆で過ごした思い出はこのカプセルの中でいつまでも一つだ」
思い出の詰まったカプセルを「埋め立てゴミ」のゴミ箱に捨てる.ちょっとしたタイムカプセルだ.

「埋め立てゴミ」のゴミ箱に積極的に思い出的な物を捨てていきたい.

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February 04, 2011

負けたい試合

特にサッカーの日本代表チームの試合で言われると思うが,「負けられない試合」や「落とせない試合」がというのは何なんだろう.試合なのだから,勝たなければならないのは当たり前だ.
もしかしたら,自分が知らないだけで,「負けてもいい試合」や「落としてもいい試合」というのがあるのではないのだろうか.安心して負けられる試合があるからこそ「負けられない試合」があるし「落とせない試合」があるのだろう.

観客がスタジアムに詰めかけ,日本代表の試合が始まる.中継のアナウンサーと解説者も準備万端だ.
「間もなく試合開始です.さて,日本代表,本日はどう戦いますか.解説のセドリック越前さん」
「今日の試合は,尻風船ですよ.目が離せませんね」
「えっ,サッカーはどうしたんですか」
「サッカーは中止になりました.主審のカルロスさんが肉離れを起こしたみたいです.代わりに尻風船になりました」
「尻風船というのは何ですか」
「ヘリウムガスを入れた風船に糸を付けてですね」
「糸を付けてどうするんですか」
「その糸を尻に挟みます.誰でも尻割れてますよね.あなたの尻は割れてますか」
「割れてます」
「風船の糸を尻に挟んだまま100メートル走ります」
「はあ」
「速い方が勝ちです.風船が尻から飛んで行ってしまったら失格です」
風船を飛ばさないように尻を締めて内股気味に走る日本代表.負けてもいい試合がここにある.

観客がスタジアムに詰めかけ,日本代表の試合が始まる.中継のアナウンサーと解説者も準備万端だ.
「間もなくホイッスルです.さて,日本代表,本日はどう戦いますか.解説のセドリック越前さん」
「今日の試合は,そのままズボン腰捻りですよ.目が離せませんね」
「えっ,サッカーはどうしたんですか」
「サッカーは中止になりました.審判全員で茶話会をするそうです.代わりに,そのままズボン腰捻りになりました」
「いや,でも,そのままズボン腰捻りって何ですか」
「選手達は,パンツを穿かないでそのままズボンを穿いてですね」
「はい,そのままズボンを穿いてどうするんですか」
「腰を激しく,素早く何度も捻ります」
「はあ」
「パンツを穿かないでズボンを穿くと新鮮な気持ちになりませんか.何かこう,解放感のようなものがあって爽快感が得られるみたいな」
「否定はしませんが」
「その爽快感を選手一丸となって味わうわけですよ.選手は気持ちがいいに決まってますよ.より爽快感を楽しんだチームの勝ちです」
「そうですか」
「私が若い頃も良くやったものです.それが忘れられなくて,ほら,私,パンツ穿いていませんよ」
「私もパンツを穿いていません」
そのままズボンの二人も腰捻り.確実に負けてもいい試合だ.

観客がスタジアムに詰めかけ,日本代表の試合が始まる.中継のアナウンサーと解説者も準備万端だ.
「いよいよ始まります.さて,日本代表,本日はどう戦いますか.解説のセドリック越前さん」
「今日の試合は,ナメクジ引きですよ.目が離せませんね」
「えっ,サッカーはどうしたんですか」
「サッカーは中止になりました.審判は結構疲れたので休むそうです.代わりにナメクジ引きになりました」
「いや,でも,そのナメクジ引きって何ですか」
「生きているナメクジを引っ張ってですね」
「はい,引っ張ってどうするんですか」
「長いナメクジにするんです」
「ええっ」
「あっ,勿論ナメクジを殺しちゃだめですよ.引っ張ったナメクジが切れちゃいけません.お子さんの教育にも悪いです」
「はあ」
「生きている長いナメクジを作るんですよ.専門的には,長ナメクジなんて言われてるんですけど,御存じないですか」
「それはいいですが,勝敗はどうやって決めるんですか」
「長い方が勝ち.短い方が負け.シンプルでいいでしょう.時間は前半45分,ハーフタイムを挟んで後半45分.時間を掛けてゆっくりナメクジを伸ばしましょう.ハーフタイムの間はナメクジを伸ばせないので,ハーフタイムの間にナメクジは元の長さに戻ってしまうかもしれませんよ.ドキドキしますね.無理なくゆっくり,これが基本です」
逆に負けたい試合がここにある.

なんでも解説できるセドリック越前の博識ぶりだ.

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January 19, 2011

開け!幕府キッキ

「やっとここまで来た.でも,これがスタート地点.本当に大変なのはこれからだ」
山本タモツは開いたばかりの幕府を見ながら,自分に言い聞かせた.
タモツは幕府を開くための苦労を思い返す.

タモツが初めて将来の夢として幕府を開くことを考えたのは,中学校での日本史の授業中であった.その時は,教科書に描かれた将軍の肖像画を見て「自分も幕府を開きたいなあ」と漠然と考えたのみであった.振り返ると,肖像画にヒゲを書き加えたのは,偉業を成し遂げた将軍達が妬ましかったからだと思う.
やがて,タモツが高校生になり,真剣に自分の将来を考えていく中で,幕府を開きたいという思いは,漠然とした考えから,はっきりとした目標となった.

タモツが「幕府を開きたい」と高校の進路面談で担任の先生に初めて口にした時のことは,今でもはっきりと思い出せる.「幕府を開きたい」と聞いた担任の先生は失笑した.
「おい,タモツ.幕府ってのは何だ」
「将軍が開くあの幕府です」
「いや,それは分かるが,将来の進路で,『幕府を開く』ってのはどういうことなんだ」
「幕府は開くものじゃないんですか.それとも,起業するものなんですか」
「いや,そういうことじゃなくてな.何というか.分からないかなあ」
「すみません.分かりません」
先生は暫くの沈黙の後に言った.
「じゃあ,タモツ.幕府を開くためには,何が必要なんだ」
「分かりません」
「それじゃあ,どう仕様もないよな.開きたいって言ってもどうすることもできないよな」
「確かにどう開けばいいのか今は分かりません.でも,先生,進路面談っていうのは,将来の進路について相談する場ではないのですか」
「まあ,そうだな」
「僕は将来幕府を開きたいと思っています.そのためにはどうすればいいのか,相談に乗って頂きたいと考えています.相談に乗っては頂けませんか」
先生は黙り,目を瞑り考え込んでから言った.
「タモツ,幕府の開き方ってのは詳しく知らないんだが,幕府を開くことは現実的な夢ではないぞ」
「そうかもしれません.だけど,僕が将来何をやりたいか,それを考えたら,幕府を開くことだったんです」
「じゃあな,タモツ.幕府を開いて何をしたいんだ」
「ええと,何をしたいか……,ですか」
「そうだ,良く考えるんだ.『幕府を開く』ってのは目的じゃないと思うんだ.どうだ」
「いや,でも……」
「いいか,幕府を開くことはそれだけで大変だと思う.それだけで偉業だろう.そもそも,現代で本当に幕府ってのが開けるのか分からないがな.たとえ今の世で実際に開けるのだとしても,どうすれば開けるのかを私は知らない.私が知る限り,徳川家康が幕府を開いたのを最後に誰も幕府を開いていない」
「はい.だからこそ僕もその偉業を成し遂げたいんです」
「でもな,肝心なのは幕府を開いてからなんじゃないのか.起業することに置き換えて考えれば分かり易いと思うんだ.会社を作りました.何を商売にするか考えていません.これでは話にならない.分かるな」
「はい」
「同じだ.幕府を開きました.開いた後に,何をどうするか考えていません.それじゃあ駄目だよな」
「まあ……,そうですね」
「幕府を開くこと自体よりも,幕府を開いて何を実現したいのかが重要だと思う.実現したいことがあって,その手段が幕府を開くというのであれば,幕府を開けばいい.でもな,幕府を開くってのは大変なことじゃないのか.さらに良く考えてみれば,その実現したいことってのを,実際に実現するためには,幕府を開くという手段よりも簡単な手段ってのが存在する可能性だってあるんだ.例えば,国や国民のために何かをしたいというのであれば,政治家になるだとか,官僚になるだとか…….そっちの方がいいんじゃないのか」
「……はい,そうかもしれません」
「よし,分かったのならいい.それでは,幕府を開いて実現したいことが決まったら,幕府のことは,また相談に乗ろう.それが決まるまで,進路面談は現実的な進路で話をする.それでいいな.今日は幕府以外のことは考えていないだろうから,今日の面談はこれで終わりにする.クラス全員の進路面談が終わったら,もう一度タモツの面談をする.それまでに,現実的な進路を考えてくるように.いいな」
「はい.でも,幕府の相談をしてもいいんですよね」
「そうだな.次回の面談で,また幕府の話を始めたとしても,今日の面談のように話が進まなくなってしまうこともあるから,現実的な進路も考えておいてくれ.幕府以外で将来何をしたいのか,そのために行きたい大学はどこか,とかな.残された時間は,あまりないぞ」
この時,先生はタモツを刺激しないようにしつつ,幕府を諦めさせようと思ったのだろう.しかし,タモツは幕府を開いてどうしたいのかを真剣に考えた.考えた末,タモツは,「珍勤交代(チンキンコウタイ)」という構想に至った.

次の進路面談で,タモツは先生に「珍勤交代」の構想を語った.
面談が始まるなりタモツの口から「幕府」の言葉を聞いた先生は困った顔をした.そして,「珍勤交代」という言葉に失笑した.しかし,タモツの語る「珍勤交代」の内容を理解するにつれ,先生も話に夢中になった.熱を帯びて語るタモツと,興奮して意見を述べる先生とで,放課後に始まった進路面談は一晩続いた.この面談は後に「関ヶ原の面談」と呼ばれ歴史に名を留めることになる.
面談の最後に先生は目を輝かせて言った.
「よし,『珍勤交代』を実現するには幕府しかないな.私もタモツの夢を応援しよう.しかし,タモツ.よく『珍勤交代』を思い付いたな」

それからの先生の行動は速かった.タモツのために,幕府を開くための方法を調べてくれた.
幕府を開くためには征夷大将軍の資格が必要であること.征夷大将軍になるためには,宮内庁が年1回行う試験に合格しなければいけないこと.その試験内容は,実技試験,筆記試験,面接の3つ.そして,全てに合格しなければならないこと.
さらに,征夷大将軍試験のための専門学校が日本に一つだけ存在することも分かった.日本で唯一の征夷大将軍の専門学校,「代々木征夷大将軍スクール」である.歴史に名を残した将軍たちも通ったといわれる由緒正しい専門学校である.

3回目の進路面談で先生は言った.
「タモツ,調べれば幕府を開く方法ってのがあるもんだな.タモツとの面談で一つ大切なことを教えてもらったよ.何もする前から,できないと決めつけてしまってはいけないんだな」
「先生,調べて頂きありがとうございました」
「でも,これからだ.やっとタモツの将来の夢のスタート地点に辿り着く方法が分かっただけだからな.実際に動くのはタモツだ」
「はい,頑張ります」
「ところで,御両親には幕府のことを話したのか」
「……いえ,まだです」
「じゃあ,御両親に話をしてみるんだ.私も付き合おう」
「でも,僕の両親は,頭が固いから,もっと堅実な職業に就けって言うと思うんですよ」
「征夷大将軍だって税金を徴収して生活するんだ.公務員みたいなもんだろう.公務員なら堅実な職業だろう.大丈夫だ.自信を持て.タモツ,お前は私だって説得できたんだ」
「そうですよね」
「私も一緒に説得に行ってもいい」

タモツと先生は,共にタモツの家に行き,両親に幕府を開くことを伝えた.
「幕府を開く」という言葉を聞いて,父親は怒り,母親は涙を流した.さらに「珍勤交代」という言葉に,怒りを通り越した父親は呆れ,母親は失神した.
しかし,タモツの両親は「珍勤交代」の内容を理解するにつれ,夢中になった.熱を帯びて語るタモツと,興奮して意見を述べる先生,斬新なアイデアを話す両親で,時間を忘れて話し合いは二晩続いた.この面談は後に「両親面談の陣」と呼ばれ歴史に名を留めることになる.

「タモツ様,ついにここまで来ましたね」
今までことを思い出していたタモツは,声を掛けられて我に返った.声をかけたのは,タモツの幕府の老中となった,かつての担任の先生である.
「うむ,これからも宜しく頼むぞ.いよいよ珍勤交代プロジェクトがスタートだからな」
再び自分の幕府を見ると,目頭が熱くなった.そして,知らず知らずタモツは代々木征夷大将軍スクールの校歌を口ずさんだ.
「どこまでも どこまでも 果てしない空 信じている限り 夢は終わらない」
この歌は,昔,足利尊氏が代々木征夷大将軍スクールに送った校歌だと言われている.


ところで,twitterを始めてみました.
http://twitter.com/JCchicken
よろしければ,どうぞよろしくお願いします.
俳句とか川柳的なよく分からない句的な文章やら,読んだ本のメモを書いたりしてます.


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January 13, 2011

豆に鳩鉄砲

驚いた顔を例えて「鳩が豆鉄砲を食らったような顔」という表現がある.
鳩が豆鉄砲を食らうと本当に驚くのだろうか.鳩にいわせれば「まあ,少しは驚くけど,そんなに驚かないよ.だって,飛んでくるのは豆でしょ」程度ではないだろうか.
むしろ,飛んでくる豆よりも鳩を驚かす物はあると思う.その時の鳩の顔こそが,本当の意味での驚いた顔ではないだろうか.

場末の劇場でマジックショーの後,年老いたマジシャンが,長年パートナーだった鳩をポケットから取り出し,暗い声で話しかける.
「なあ鳩よ,俺,マジシャンを廃業しようと思うんだ」
慌てて鳩は答える.
「ええっ,突然何を仰るのです.私と旦那は気の合うパートナーじゃないですか.違いますか.私に飽きたってことじゃないですよね」
「いや,俺がお前に飽きたんじゃないんだよ.今までお前とは一生続けられるパートナーだと思ってた.いや,今でも思っているんだ」
「じゃあ何で…….私が歳だからっていうんですか.まだまだいけますよ.旦那,そんなこと言わずに,昔みたいに,私を使ったマジックで大勢の人を驚かしましょうよ」
「俺だってそうしたいさ.でもな,世の中,びっくりすることが多すぎてなあ,俺のマジックじゃ驚かなくなっちまったんだよ.俺がお前に飽きたわけじゃない.世の中の人が,俺達のマジックに飽きちまったんだよ」
「じゃあ,私らパートナーは……」
「パートナー解消だ.勿論,俺だってマジシャン廃業だ」
「それじゃあ,私はどうすれば」
「今までありがとうな.お前は,お前で普通の鳩として生きればいい.これからは,空を自分の思うまま飛んでくれ.俺のマジックのためじゃなくな」
鳩は,長年のパートナーから切り出された突然の別れに驚く.
「鳩が突然の別れを告げられたような顔」だ.

鳩が気持ちよく朝の晴れた空を飛んでいると木陰からヒソヒソと話し声が来た.
「鳩ってさあ,結局何なのさ」
「そうそう,あの鳥って何か勘違いしてるよ」
「あの歩く時の首の動きとかね.あれは何がしたいの」
「あれは絶対オシャレな私をアピールしようとしているんだよ」
「ええっ,それはないでしょ.あれ,オシャレじゃないもん」
「だって,鳩が歩きながら『オシャレでしょ』って言ってたのを聞いたよ」
「まさか,モデルを気取ってやつなの」
「いや,無理あり過ぎだって,モデルって」
「っていうか,それより,平和の象徴気取りって何のつもり」
「人間がそう言うから渋々平和の象徴やってるって言ってるけど……」
「あの顔は絶対に渋々って顔じゃないよな」
「やっぱりそうだよね」
「あれは,明らかに喜んでるよ」
「そういえばさあ,俺の友達が鳩に言われたらしいんだよ.『平和ってなんだか知っているかね』とかって」
「何それ.意味分かんない」
「気持ち悪いよね
「あの汚い鳥が平和って」
「笑える」
鳩が木陰を覗き込むと,雀達が集まっていた.そして,鳩の陰口を叩いていた.
鳩は自分よりも格下だと思っていた雀から陰口を叩かれたことに驚き,「クルルーポッポー」と泣きながら青空を飛び去る.
「鳩が雀に陰口を叩かれたような顔」だ.

鳩は,息を切らしながら岩山の上に一本生えた木の枝に止まり,見まわした.
どうやら,奴はまだ来ていないようだ.当然のことだ.鳩の俺に敵うわけないのだ.
鳩は一息付く.
身の程を知らない雀だ.
鳩は,飲み屋で雀と口論となった.雀は,鳩が歩くとき,首が前後に動くのが気に入らないようなのだ.飲み屋のオヤジの仲裁もあり,飲み屋での喧嘩は収まったが,気の済まなかった雀は「伝書勝負」で決着を付けようといいだした.この勝負を持ちかけられた鳩だって黙ってはいられない.由緒正しき伝書鳩.伝書勝負を逃げるわけにはいかない.「そこまで言うのなら,付きあってやろう」と鳩がいうと,この勝負を見逃すわけにはいかないと,飲んでいた小鳥たちが集まり「それじゃあ俺達が見届けよう」と集まってきた.
鳩は,つまらなそうに見まわした.
雀は来ないようだな.どうせ途中で逃げ出したのだろう.無謀な勝負を挑んだな.
鳩は笑いがこみ上げてきた.「クルルークルル―」としか聞こえない笑いが嘴から漏れる.
ところが,雀の声が聞こえてきた.
「いやー,鳩さん.頑張ったみたいだけど駄目ですねえ」
鳩が声の方に目をやると岩陰から,ニヤニヤとしながら雀がでてきた.
「この勝負は私の勝ちですよ.伝書じゃ,私に勝てないようですね.あまりに鳩さんが遅いので,先にゴールに着いた私は一眠りしてましたよ」
そして,雀の後ろの岩陰からこの勝負の見届け人の小鳥達が出てきてさえずった.
「この勝負,雀さんの勝ちですよ,鳩さん.私たち見届けましたよ」
雀は驚いた鳩を見て言った.
「伝書も駄目な鳩って何なんでしょうね.貴方は何のために存在するんですかね」
鳩は「鳩が雀に伝書で負けたような顔」をしていた.

おそらく,鳩は驚くようなことがあっても,3秒くらいしたら全て忘れると思う.所詮,鳥.なので鳩を驚かせても何もいいことはないと思う.

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December 23, 2010

もっこりほっこり

最近の「ほっこり」という言葉の使い方が嫌いだ.
昔から使われている意味とも違う,京都で使われる意味とも違う,「ほっとする」や「癒される」という意味の使い方だ.自分自身何が気に入らないのか分からないが,とにかく気に入らない.
「ほっこりした」という言葉を聞くだけで,何故かイラッときてしまう.我ながら驚くほどの心の狭さだ.
そんな時は,ほっこりの別な使い方を考えてみる.

取調室で刑事が,容疑者を取り調べる.
「おい,お前がやったんだよな」
「証拠は挙がっているんだ.田舎のおっかさんも今のお前を見たら泣くんじゃないか.もう,全部しゃべったらどうだ」
刑事の追求に,容疑者は涙を流して答える.
「はい,すみません.つい,ついほっこりしちまって」
刑事が頷いて
「そうか,よく言った.仕方ねえよな,ほっこりしちまったんだから」
東京で急増するほっこり半分の犯罪.魔都東京,今夜もほっこりする.

夏といえば水着の季節.最近テレビ番組が面白くないとの声に応え,あの番組が帰ってきた.
「ドキッ!丸ごと水着!女だらけの水泳大会 『ほっこり』もあるよ」
ほっこり要員と呼ばれる女性のほっこりシーン満載だ.ビキニが取れてほっこりしたり,ビキニの隙間からほっこりしたり,出演アイドルはほっこりしないかと思ったら,間違ってほっこりしたり.ほっこりすると見せかけて,ほっこりしなかったり.ほっこりしながら,さらにほっこりしたり.
それを見ていた中学生は,もうほっこりしっぱなし.

体育の授業.見学するタモツに体育教師が話しかける.
「おい,タモツ.どうした.体の調子が悪いか」
「は,はい.ちょっと」
「大丈夫か」
「あの,実は,ほっこりしたので,今日の体育は見学させてください」
「そうか,お前もついにほっこりか.いやー,お前も大人の仲間入りだな」
笑う教師を見て照れるタモツの顔はどこか誇らしげだ.
女子が男子に内緒の理由で体育を見学するように,男子も女子に内緒の理由で体育を見学する.女子にはあまり知らていない,男子中学生名物ほっこり見学.
そして,タモツは帰ったらカレンダーに「ホ」と書いて丸を付けるのだ.

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日は ほっこり記念日
タモツはカレンダーに「ホ」と書いて丸を付けるのだ.

木の洞に身を潜め,荒い息を無理やり殺す.今回もやり過ごすことはできないだろうか.既に2度の襲撃を受けたが,何とか凌ぐことはできた.しかし,今回も何とかなるかもしれないという希望は,2度目の襲撃で受けた胸の傷がかき消す.
このジャングルでは,獲物として狙われた人間が動物達から逃れる術はない.
その時,すぐ近くで下草を踏みしめる音がした.続いて仲間に知らせるように吠える声が聞こえる.
「ほっこり」
もうだめだ.

誰かが「ほっこり」と言っているのを聞いたときは,カレンダーに「ホ」と書いて丸を付けてみようと思う.

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