こちらFBI超能力捜査部捜査1課
「FBI超能力捜査官」って何だろうと思う.FBIにそんな捜査官が存在していると本気で信じる人などいるだろうか.
しかし,もしFBI超能力捜査官がいたらどんな人なのだろうか.なんだか知らないが楽しそうな捜査官だと思う.そこでFBI超能力捜査官を想像してみた.
『こちらFBI超能力捜査部捜査1課』
「いやー,今日も寒いよねえ.まあ,どんなにみんなが厚着していても,全部見えてしまって困っちゃうよね,えへへへ」
就業時間の9時になると,FBI超能力捜査部捜査1課の課長の透視捜査官が,一人の若い男を連れ,捜査1課の部屋のドアを開けて入って来た.
ここはFBI超能力捜査部捜査1課.「FBI超能力捜査官」と呼ばれる人達はこの部署で働いている.1課の捜査官は全員超能力を持っており,1課では捜査官が超能力を使って事件の解決をする.また,この部署はFBIでも最高機密であり,捜査1課の部屋は他の部署から離れた地下の一室にある.さらに,機密保持のため捜査官はお互いの本名を知らされておらず,捜査官同士はお互いをその人が持つ超能力で呼んでいる.
課長は透視捜査官と呼ばれており,その名の通り透視能力を持つ.FBIでもやり手の捜査官であり,透視能力を使って解決した事件は数多い.しかし,彼が解決したことは公表されていない.ちなみに彼の趣味は,透視能力を使った覗きである
「課長,その発言,セクハラですよ」
そう言ったのは捜査1課の紅一点,念動力捜査官だ.彼女の超能力はテレキネシスとも呼ばれる念動力である.5kg入りの米袋であれば,10分かけて1メートルくらい動かすことができる.
「課長,その一緒にいる人は誰ですか」
課長にそう質問したのは恰幅の良い消化器官捜査官だ.彼の超能力は,人より腸が長いこと.その長い腸を使って,大抵の物なら消化することができる.これまで,FBIは自分達にとって都合の悪い証拠品からオフィスで不要になった機密書類まで彼の腸を使って処分してきた.
そして,もう一人,何も言わず,自分の席に座って一人でジェンガをしているのは空中浮揚捜査官だ.彼の能力は空中浮揚.胡坐をかいた状態で10cm程浮き上がった状態で3分間静止することができる.この能力で1課の捜査官の命を救ったことは数知れず.おとなしいが頼りになる捜査官だ.
「そうだ.ちょっと,みんな聞いてくれ.彼は今日から1課に配属されたインターネット捜査官だ.超能力はインターネットだそうだ.詳しくは私も聞いていないが,まあ彼の超能力はその内に分かるだろう」
課長は消化器官捜査官の質問に答えた.
「念写捜査官の後任って訳ですね」
と空中浮揚捜査官はジェンガを崩さないようにピースを抜きながら言った.
念写捜査官とは2ヶ月前に殉職した超能力捜査官だ.念写捜査官は,彼にとっては最後の事件となるのだが,犯人を目の前にして犯人の顔の念写を試みた勇気ある捜査官だった.彼の念写にはカメラのシャッターを切る前に数分の精神統一が必要なのであるが,その精神統一中に犯人に射殺されてしまった悲劇の捜査官となってしまった.
ここで超能力捜査を知らない一般人は,「犯人を前に何故念写をしたのか」,「写したかったら直接写せばいいんじゃないのか」,「そもそもその場面で写真が必要なのか」と疑問に思うかもしれない.残念ながら,その疑問には「それは超能力捜査を分かっていないから」としか答えようがない.そんなことを疑問に思うような人は,犬のエサでも食べて犬にでも成り下がってしまえばいいし,そんなことを疑問に思う時間があるのであれば,手打ち蕎麦でも打って家族に振舞っているほうが有効な時間の使い方というものだ.
「まあ,みんなとにかくインターネット捜査官だ.みんな彼が困っていたら助けるように.インターネット捜査官,早く活躍できるようにがんばってくれよ」
念写捜査官が話題に上って暗くなった捜査1課の雰囲気を振り払うように課長は言った.
「はい.インターネット捜査官です.よろしくお願いします」
インターネット捜査官は,張り切って言った.
「よし,インターネット捜査官の歓迎会は1ヶ月後,幹事は消化器官捜査官,頼むぞ」
課長は消化器官捜査官に向かって言った.
その時,けたたましく課長のデスクの上の電話が鳴った.課長は受話器を慌てて取る.
「えっ,誘拐事件ですか,誘拐されたのはサンフランシスコに住むダニエル君5歳.手がかりはそれだけですか.はい,分かりました.捜査を開始します」
そう言って受話器を置き,「よし,みんな……」と課長が言いかけたときには,捜査官は事件解決に向けて動き出していた.空中浮揚捜査官はすぐに胡坐をかきいつでも浮き上がれるよう準備.念動力捜査官は倉庫へ米袋を取りに行こうと,倉庫の鍵を机から出す.消化器官捜査官は大福を口へ放り込む.緊迫した空気が捜査1課を包み込む.
「……いや,みんな,ちょっと待ってくれ.今日はせっかくだから新人に任せてみることにしよう.インターネット捜査官,君の超能力を我々に見せてくれ」
課長はインターネット捜査官を見て言った.
「はい.任せてください.すぐに捜査を始めます」
インターネット捜査官は,そう言い終わるや否やパソコンを起動し,素早くブックマークしてある検索サイトを開く.キーワードに「サンフランシスコ,誘拐,ダニエル君,5歳」と打ち込み,検索ボタンを押した.手がかりを検索開始.検索に犯人の名前,ダニエル君の監禁場所がヒット.検索結果がブラウザに表示される.
「課長,犯人の名前はボブ,監禁場所はサンフランシスコのアパートの一室です.これから証拠の収集を開始します」
続いて犯人の名前をキーワードに画像検索開始.犯人の顔写真が検索にヒット.その画像をダウンロードしてパソコンに保存.さらに動画投稿サイトで,犯人がダニエル君を拉致して車に乗せている瞬間の動画を検索して,証拠映像としてダウンロード.
「課長,犯人の顔写真,証拠映像を押さえました.犯人確保に向かいます」
ブラウザのURLに「犯人逮捕」と打ち込み逮捕サイトへ接続.メニューからボブを選び「逮捕開始」ボタンを押す.進捗を示すプログレスバーが表示されたダイアログが現れる.プログレスバーが80%,90%と進み,100%となったところで「逮捕完了」のダイアログが現れ「OK」ボタンを押す.
「課長,ただいま犯人逮捕しました.留置所へダウンロード完了です.それではダニエル君の保護に向かいます」
同じくURLに「被害者保護」打ち込んで被害者保護へ接続し,ダニエル君を両親の待つ自宅へ転送.
「課長,ダニエル君を自宅へ転送しました.事件は無事解決です」
インターネット捜査官の早すぎる事件解決に,信じられないという顔をした捜査官達.そんな空気の中,捜査1課の電話が再び鳴る.課長が受話器を取り上げて,信じられないという表情になり,受話器を置く.
「誘拐事件が解決したそうだ.ボブは現在留置所,ダニエル君も無事両親の元へと帰ったそうだ.ご苦労だったな,インターネット捜査官」
他の捜査官から感嘆の声がもれる.
「いや,そんなに大したことじゃありませんよ」
インターネット捜査官は少し照れながら答えた.
「こんなに簡単に事件を解決されたら,我々,仕事なくなっちゃうなあ」
課長はインターネット捜査官を褒める.
「いやー,これじゃあこの先,俺もこの仕事でご飯食べていけないよ」
消化器官捜査官が冗談っぽく言った.
「じゃあ,私が念動力で米をみんなの家まで持って行きますよ」
念動力捜査官のアメリカンジョークにみんなが笑う.
「あはははは」,「うふふふ」.
捜査官達の明るく楽しい笑いが室内に響く.
「ははは」
新人のインターネット捜査官もつられて笑い出す.今日も捜査1課の一日は楽しく過ぎていくのであった.
後日,インターネット捜査官は,歓迎会の幹事を消化器官捜査官から押し付けられ,インターネットで店探しから予約,日程の調整,会計までこなして,FBI初の自分で自分の歓迎会幹事となるのだが,それはまた別の話だ.


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