縦縞が横縞に
プロ野球で,どこかのチームに優勝の可能性が出てくると,「マジックが点灯した」などと言われる.野球に疎い私にはこれが何だか分からない.マジックとは具体的に何なのか,それが点灯すると何がいいのか,大豆が醗酵すると何故味噌になるのか,あのときの友情は嘘だったのか.さらに分からないのは,点灯したマジックが消えてしまうこともあるということだ.何のための点灯だったのか,消えてしまうようなマジックなら初めから点けなくてもいいのではないか.
ともかく,マジックって何だろう.
「今日は転校生を紹介する.丸和太郎君だ.丸和君は……」
その時,クラス一かわいいと評判の若林こずえの視線と丸和太郎の視線が重なり合い,若林こずえの胸が高鳴る.
「ヤバイ,マジックが点灯した」
思わず声に出した若林こずえにクラスメイトの視線が集まる.
それから10年後,このとき点灯したマジックで,若林こずえが初の女性メジャーリーガーとなり,ワールドシリーズを制することになる.一方,丸和太郎は,初めて若林こずえと会った日から特に何の関係もなく,死ぬまで生き続けたという
お盆になると遠野では,先祖の霊を迎えるために,それぞれの家でマジック点灯が行われる.遠野の伝統行事として,現在でも受け継がれている.
玄関先でその家の者達が手を合わせてマジックを点灯させる.言い伝えでは,死んだお祖父ちゃんやお祖母ちゃん,先祖の霊がリリーフカーに乗ってやってくる.
「あっ,お祖父ちゃんが,今,見えたよ」
空を見上げてそう言う幼い子供の声に,涙を浮かべるその両親.
「お祖父ちゃんは太郎に会うために戻ってきたんだよ」
太郎の円らな瞳に写るのは,リリーフカーに乗ったお祖父ちゃん.その手で振られるヤンキースの野球帽.
雪がちらつく大晦日の寒空の下,マッチを売る一人の少女.
「マッチはいかがですか.マッチは要りませんか」
足早に通り過ぎる人々は少女に気を留めることはない.身を切り裂くような寒さに耐えかねた少女は,少しでも暖を取ろうとマッチを擦る.すると,少女にマジックが点灯.点灯したマジックは,マッチの炎が消えると共に消滅.少女は慌てて,一本,また一本とマッチを擦り,マジックを点灯させ続ける.やがて,マッチの炎の中に生前とても可愛がってくれた祖母が現れ,少女にヒーローインタビュー.少女は誇りに満ちた顔でそれに答える.
翌日の朝,雪に埋もれて倒れた少女の姿が発見される.その姿は間違いなくセ・リーグの覇者であったという.
「やっぱり,最高の人生ってのは,マジックが点灯している人生なんだよ」と知った風な口をききたい.

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