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January 28, 2010

呉へ集う衆

臥薪嘗胆という言葉がある.昔の中国の故事が元となった言葉だ.
越の王の勾践(こうせん)に父親を討たれた,呉の王の夫差(ふさ)は,毎日薪の上に寝て復讐の思いを奮い立たせて越を討った.一方,敗れた勾践は胆を嘗めて,苦さで敗戦での屈辱を思い出して,夫差を滅ぼしたという故事らしい.
しかし,気持ちを奮い立たせたり屈辱を忘れないために,痛いことをしたり苦い物を口にする必要はないと思う.気持ちを奮い立たせたり屈辱を思い出す方法は他にもある.

「えー,それでは今日も読みます」
呉の王,夫差は毎朝家臣を集めて詩を朗読する.
「『私の雨』
雨降る日には空が泣いている
空は何を思って泣くのだろう
空は何を思って泣くのだろう
泣いているのは空だけなのか
私の頬を流れる涙
私は空と一緒に泣いている
私は何を思って泣くのだろう
私は何を思って泣くのだろう」
勾践が思春期に自分で作って書いた詩だ.
勾践は恥ずかしさで赤面してクネクネと悶えながら読む.聞いた家来もつられてクネクネする.
そして,夫差は父を討たれた恨みを思い出すのだ.

越の王,勾践は何食わぬ顔をして椅子に座っているが,便意を我慢して3時間だ.お腹の弱い勾践はもう気絶寸前.夫差に敗れた勾践は,敗戦の屈辱を忘れないためにトイレに行きたくなってから5時間我慢することにしている.
残り時間は2時間.顔中に浮かぶ脂汗.ああ,トイレに行きたい.でも思い出せ,敗戦の屈辱を,我慢できずに漏らしたときの屈辱を.
勾践の勝率は2割.10回のうち8回は漏らす.
勾践は,だんだんと漏らした時の屈辱感が気持ちがいいと感じ始めている.勾践は未知の領域に一歩を踏み出し始めている.

「領収書をお願いします」
呉の王,夫差は,買い物をすると会計の店員に領収書を頼む.
「かしこまりました.宛名はいかが致しましょうか」
「『青空ドリーム』でお願いします.これは私の本名です」
「えっ,あっ,そうですか」
「そして,本日購入した『おしゃぶり』は自分用です.すぐに使うので包装はいりません」
沈黙する店員.重苦しい雰囲気が店員と夫差を包む.そして,夫差は父を討たれた恨みを思い出す.

真夜中に,城から人に見つからないよう素早く出て行く影.越の王,勾践だ.
勾践は全裸で小銭を握りしめている.近くの自動販売機にジュースを買いに行くのだ.夫差に敗れてからは,敗戦の屈辱を忘れぬよう毎晩全裸でジュースを買いに行っている.
誰かに見つかったら,警察に通報されるだろう.ドキドキとしながら,素早く物影から物影へ.しかし,最近は恐怖の中に,誰かに見つかりたいという気持ちが芽生えてきた.
「ああ,誰かがこの国の王である私を見つけて罵ったら,私はどんな気持ちになるのだろう.そしてその誰かを理不尽に処刑したら,私はどんな気持ちになるんだろう」と考えるとワクワクが止まらない.
勾践はこうやって大人の階段を上る.

呉と越の国の家臣達は,王と共に未知の領域での喜びに目覚めることになる.そして,「呉越同舟」という言葉ができることとなった.
もちろん,「呉越同舟」とは「一隻の舟に変態満載」という意味だ.

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January 22, 2010

ベン洞爺

昼食に弁当を買おうと店を見ていたら,「お母さんの味」や「お母さんが作った」という宣伝文句を見た.自分で料理を作るようになって分かったのだが,私の母親は料理が下手だ.なので「お母さんの味」を思い出したくないし,「お母さんが作った」物を食べたいとも思わない.
誰にでもアピールできる宣伝文句はないだろうか.

バスの運転手が仕事を離れ,作ってみた弁当.バスへの愛情,ガソリンへの思い,バスの大きさを込めて手作り.
「バスの運転手が作った弁当」だ.
ちょっぴり香るオイルの匂いが食欲を刺激する.

「ああ,ここまでだな」
メロスは諦めた.
「親友のセリヌンティウスは今頃凄いことになっているのだろうな」と考えながらメロスは,その場で弁当を広げる.昨日の妹の結婚式で出た残り物を詰めて自分で作った弁当だ.
「でも,俺はここまでがんばったよな.結構走ったし.がんばった俺はここで弁当を食べる権利があるはずだ」
ひとりで言い訳しながらメロスは弁当を食べてお茶を飲む.ちょっぴり「セリヌンティウスの味」がした気がする.
「ありがとうセリヌンティウス.そして,さようなら」

「お前ら,早く弁当を作れ」
とけしかけられる養豚所の豚達.彼らが作るのは「豚が作った弁当だ」.
弁当箱に詰めるのは,昨日まで隣で一緒に弁当を作っていた豚の山田さん.今ではソーセージだ.豚が作り,豚の味がする弁当.明日詰められるのはわが身かと,涙を流して米を詰める.
少し塩味がする「豚が作った豚の味」だ.

岩手県の山中の森に置かれた一つの弁当.遠野の伝承に出てくる妖怪「ベントウヅクリ」が置いた弁当だ.
ベントウヅクリは手製の弁当で人間を誘き寄せ,心からのおもてなしで歓迎する.弁当を食べているとお茶を入れて,おにぎりはもういらないかと尋ねる.
「妖怪の手作り弁当」は懐かしい味がする.

弁当箱を開けたら,サラダだけだったり,焼いたサンマ一匹だけだったりした中学生のときの弁当.文章を書いていたら思い出したくないことを思い出した.

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January 06, 2010

トッケンJr.

「征夷大将軍」の特権というのは何だろうと考えることがある.大友弟麻呂に始まり,坂上田村麻呂や源頼朝,足利尊氏,徳川家康などが征夷大将軍に任命されてきた.彼らの特権というのは何だったのだろう.
恐らく,「幕府を開ける」というのも特権の一つなのだと思う.他に,征夷大将軍になって何かお得なことはあったのだろうか.

ある夏の日,鎌倉を散策していた源頼朝.喉が渇いて近くにあった茶店に立ち寄る.
「こんにちは,御注文がお決まりでしたらどうぞ」の店員の声を受け,注文する源頼朝.
「グランデのキャラメルマキアートを一つ頂けぬか」
「かしこまりました」
「あ,これを持っているのだが」
と源頼朝が懐から取り出したのは一枚のカード.
「いつもありがとうございます.当店ではこちらのカードで5%引きにさせて頂いております」
源頼朝が出したのは将軍カード.茶店で全商品5%オフだ.

暇潰しにゲームセンターに立ち寄った足利尊氏.店員に声を掛ける.
「このカードを持っているのだが,何か特典はあるかな」
足利尊氏が懐から取り出したのは,将軍カード.
「いつもありがとうございます.このカードでは,こちらの乗り物に1回無料でお乗り頂けます」
店員が足利尊氏に示したのは,コミカルな音楽と共に上下動くパンダのマシン.
「じゃあ,一回頼む」
店員がマシンを操作し,パンダの背中に跨って音楽と共に上下に動く足利尊氏.こぼれる笑顔.ゲームセンターでは,パンダマシンが一回無料だ.

死んだ子犬を抱いて泣きじゃくる子供.
「ペットのペロが死んじゃったよ」
そこへ通りかかったのは坂上田村麻呂.
「坊や,ちょっとペロとやらを見せてみなさい」
坂上田村麻呂は懐から出した将軍カードで死んだ子犬の頭を撫でる.すると生き返って走り回るペロ.
「おじちゃん,ありがとう」
満足そうな顔で子供に微笑む坂上田村麻呂だ.

はとバスで一人で江戸観光をする徳川家康.偶然隣の席に座った町娘が車酔い.心配した家康は声を掛ける.
「もしもし,娘さん.車酔いかね」
「はい,ちょっと気分が」
「これを試してみたらどうかね」
徳川家康が懐から取り出したのは,将軍カード.
「娘さん,これをテープでヘソに貼ると車酔いをしないそうだよ」
将軍カードをヘソに貼ると,車酔いをしない.そんな民間療法だ.

オシャレなフランス料理店で意中の女性と食事をする大伴弟麻呂.食事を終えてギャルソンを呼ぶ.
「ちょっと来てくれ給え」
「はい」
「会計はこれでしてくれ給え」
大伴弟麻呂が女性にも見えるように懐から取り出したのは将軍カード.
「申し訳ございません.当店ではこのカードのお取り扱いをしていないんですよ」
「えっ,いや,私は初代征夷大将軍の……」
「申し訳ございません」
「何とか……」
「申し訳ございません」
泣きながら店を飛び出す大伴弟麻呂.今日はお金を持ってこなかった大伴弟麻呂.征夷大将軍だってお金がない日だってある.将軍カードだって使えない店だってある.

昔は天皇が任命していた征夷大将軍.恐らく,現在は宮内庁あたりに申請書と入会金とを送れば将軍カードが貰えると思う.

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