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August 17, 2010

バーティミアス・ラーユ

食べるラー油.いまいち腑に落ちない.ラー油は食べる物だと思う.直接スプーンに掬って食べることはないにしろ,食べる物であることは間違いない.
「食べる」と前に付くからには「食べる」以外のラー油があり,食べ物としてのラー油とそれ以外の区別を付ける必要があったのだと思う.食べるラー油以外のラー油というのは何だろう.

高校に入学して初めての夏休みを終え,二学期の初日の朝.タモツ(15歳)は冷蔵庫から一瓶のラー油を取り出す.
「よし,今日からは新しい自分だ」
ラー油をスプーンで一掬い.忽ち,ときめく心.
タモツが食べたのは「恋するラー油」.彼の恋は今走り始めたばかりだ.

話題のラー油をスーパーで購入し,家に帰って味見にスプーンで一掬いし,口に入れる増田マスオ(47歳).
目を瞑り,「うぉー」と咆哮する.
マスオが手にしている瓶のラベルには「あの夏を悔やむラー油」.マスオの高校2年の夏休みの出来事を思い出す.彼が流す涙は辛さのせいではない.

秋になると北海道の川に,ラー油達が帰ってくる.
春になって卵からかえって海へ下り数年で故郷の川へ帰ってくる.
北海道では秋の風物詩として有名だ.街では恋人同士が橋の上から川を遡るラー油を見つめ,森では熊がラー油を採って冬眠に備えた栄養とする.
それが「遡上し産卵するラー油」だ.

昔々,ある所に老夫婦が住んでいた.ある雪の降る日,お爺さんが薪を売りに出かけた帰りに罠に掛ったラー油を見つける.お爺さんは可哀そうに思いラー油を罠から逃がしてやった.
その後,老夫婦の元に美しい女も来なかったし,恩返しもされなかった.
なぜなら,罠にかかっていたのは「罠にかかるラー油」であり,「恩返しをするラー油」ではないからだ.

夜の江戸の町に呼子の音が響き,同心の声が飛ぶ.
「ラー油だ,ラー油小僧が現れたぞ」
不正で私腹を肥やす役人や非合法な手段で富を蓄える商人からお金を奪い,貧しい人々に分け与える通称「ラー油小僧」.
後の「義賊として活躍するラー油」その人だ.

ラー油への期待の高さが窺える.

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