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December 23, 2010

もっこりほっこり

最近の「ほっこり」という言葉の使い方が嫌いだ.
昔から使われている意味とも違う,京都で使われる意味とも違う,「ほっとする」や「癒される」という意味の使い方だ.自分自身何が気に入らないのか分からないが,とにかく気に入らない.
「ほっこりした」という言葉を聞くだけで,何故かイラッときてしまう.我ながら驚くほどの心の狭さだ.
そんな時は,ほっこりの別な使い方を考えてみる.

取調室で刑事が,容疑者を取り調べる.
「おい,お前がやったんだよな」
「証拠は挙がっているんだ.田舎のおっかさんも今のお前を見たら泣くんじゃないか.もう,全部しゃべったらどうだ」
刑事の追求に,容疑者は涙を流して答える.
「はい,すみません.つい,ついほっこりしちまって」
刑事が頷いて
「そうか,よく言った.仕方ねえよな,ほっこりしちまったんだから」
東京で急増するほっこり半分の犯罪.魔都東京,今夜もほっこりする.

夏といえば水着の季節.最近テレビ番組が面白くないとの声に応え,あの番組が帰ってきた.
「ドキッ!丸ごと水着!女だらけの水泳大会 『ほっこり』もあるよ」
ほっこり要員と呼ばれる女性のほっこりシーン満載だ.ビキニが取れてほっこりしたり,ビキニの隙間からほっこりしたり,出演アイドルはほっこりしないかと思ったら,間違ってほっこりしたり.ほっこりすると見せかけて,ほっこりしなかったり.ほっこりしながら,さらにほっこりしたり.
それを見ていた中学生は,もうほっこりしっぱなし.

体育の授業.見学するタモツに体育教師が話しかける.
「おい,タモツ.どうした.体の調子が悪いか」
「は,はい.ちょっと」
「大丈夫か」
「あの,実は,ほっこりしたので,今日の体育は見学させてください」
「そうか,お前もついにほっこりか.いやー,お前も大人の仲間入りだな」
笑う教師を見て照れるタモツの顔はどこか誇らしげだ.
女子が男子に内緒の理由で体育を見学するように,男子も女子に内緒の理由で体育を見学する.女子にはあまり知らていない,男子中学生名物ほっこり見学.
そして,タモツは帰ったらカレンダーに「ホ」と書いて丸を付けるのだ.

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日は ほっこり記念日
タモツはカレンダーに「ホ」と書いて丸を付けるのだ.

木の洞に身を潜め,荒い息を無理やり殺す.今回もやり過ごすことはできないだろうか.既に2度の襲撃を受けたが,何とか凌ぐことはできた.しかし,今回も何とかなるかもしれないという希望は,2度目の襲撃で受けた胸の傷がかき消す.
このジャングルでは,獲物として狙われた人間が動物達から逃れる術はない.
その時,すぐ近くで下草を踏みしめる音がした.続いて仲間に知らせるように吠える声が聞こえる.
「ほっこり」
もうだめだ.

誰かが「ほっこり」と言っているのを聞いたときは,カレンダーに「ホ」と書いて丸を付けてみようと思う.

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December 08, 2010

頭から帰る

「頭に来た」
人が言うのを聞く度に,何が頭に来たのだろうと思う.いや,「誰かの言動が頭に来た」ということは,分かる.「頭に来る」が「怒る」ということを意味しているのも分かる.
誰かの「発言」を聞いて「頭に来る」というプロセスを考えてみる.
「(誰かの)発言」→「聞く」→「この発言は自分を馬鹿にしている理解する」→「『何か』に変換される」→「『何か』が頭に向かう」→「『何か』が頭に到達」→「頭に来る」
他の人に分かってもらえなくても良い.「頭に来た」という人には実際に何かが頭にきているということだ.「頭に来た」と言っている人を目の前にすると,この人の頭には何が来ているのだろうと考えてしまう.

「君の報告書は全く意味が分からないんだよ.何回言えば分かるかなあ」
厳しい課長が部下の女子社員を叱りつける.
その時,課長のズボンの裾から入った何かが,つま先からふくらはぎ,腿を登り,カリカリとツメを立てて下腹部,腹,胸,首を一気に駆け上がる.そしてついに頭に到達し,課長は大声を出す.
「もう頭に来たぞ」
恐れ慄く女子社員は涙目だ.その時,ハムスター的な動物が課長の頭頂部から「チュウ」と顔を出す.怒られていた彼女も「あら,かわいい」と声を上げる.
「さあ,お嬢さん.君に涙は似合わないよ.君にはこの動物が似合うんだ」
課長は,動物を女子社員に差し出す.
「素敵」
と女子社員は動物を受け取る.
厳しい課長が見せる紳士の振る舞いだ.

冬の寒空の下,駅で口論をする青年が声を荒げる.
「もう,頭に来た」
そんな彼の頭に来たのは,「春色のジャケット」だ.薄手に仕立てられたジャケットは,若葉のような緑色が目に眩しい.春色のジャケットは,腹を立てて寒く厳しい冬を過ごす彼に春の妖精からの贈り物なんだね.
でもね,それだけを羽織っても冬の寒さは乗り切れないよ.冬の厳しさの前に跪き,そして風邪をひいてしまうんだね.

「すげえ,頭に来た」
荒くれ者の若者が道端で大声を上げる.若者の頭に来るのは当然「すげえ」だ.
八本のタカアシガニのような足を持ち,足に比べて小さなナマコのような体,その中心には大きな目が一つ,そして鋭く大きな黄色い嘴.体長は2mほど.驚くほど早く動く.
そんな「すげえ」が彼の頭に来て,被っていたヤンキースのニット帽を2本の足で摘み上げる.近くの老人は説明的なセリフで腰を抜かす
「妖怪じゃ,古代の妖怪『すげえ』じゃ.言い伝えは本当じゃった」
平安時代の陰陽師が滅ぼしたと言われる「すげえ」.荒くれ者は一言は,「すげえ」を蘇らせる.人類の存亡を賭けた戦いが再び始まる.

「モウ アタマニ キタゾ」
アメリカから日本に来て2年目のダニエルが憶えたての日本語で腹を立てる.
そんなダニエルの頭に来たのは「移ろいゆく季節」.季節の移り変わりが見せる美しさだ.八百万の神々が住む国,日本.日本の神々がアメリカ人ダニエルの眼で舞う.
春には葉を茂らす前に花を咲かせる桜,やがて花は散り葉へと変わる.梅雨に濡れて鮮やかさを増す緑色,夏の日に映える深緑,秋には黄色の葉を落とし,冬には枝に雪を纏う.
「アア アタマニ キタ デモ コノクニハ ウツクシイ」
日本に惑わされるダニエル.もう何が何だか分からない.

頭に来た人を前にどうでもいいことを考える自分.頭に来た人の怒りはいつまでも収まらない.

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