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December 08, 2010

頭から帰る

「頭に来た」
人が言うのを聞く度に,何が頭に来たのだろうと思う.いや,「誰かの言動が頭に来た」ということは,分かる.「頭に来る」が「怒る」ということを意味しているのも分かる.
誰かの「発言」を聞いて「頭に来る」というプロセスを考えてみる.
「(誰かの)発言」→「聞く」→「この発言は自分を馬鹿にしている理解する」→「『何か』に変換される」→「『何か』が頭に向かう」→「『何か』が頭に到達」→「頭に来る」
他の人に分かってもらえなくても良い.「頭に来た」という人には実際に何かが頭にきているということだ.「頭に来た」と言っている人を目の前にすると,この人の頭には何が来ているのだろうと考えてしまう.

「君の報告書は全く意味が分からないんだよ.何回言えば分かるかなあ」
厳しい課長が部下の女子社員を叱りつける.
その時,課長のズボンの裾から入った何かが,つま先からふくらはぎ,腿を登り,カリカリとツメを立てて下腹部,腹,胸,首を一気に駆け上がる.そしてついに頭に到達し,課長は大声を出す.
「もう頭に来たぞ」
恐れ慄く女子社員は涙目だ.その時,ハムスター的な動物が課長の頭頂部から「チュウ」と顔を出す.怒られていた彼女も「あら,かわいい」と声を上げる.
「さあ,お嬢さん.君に涙は似合わないよ.君にはこの動物が似合うんだ」
課長は,動物を女子社員に差し出す.
「素敵」
と女子社員は動物を受け取る.
厳しい課長が見せる紳士の振る舞いだ.

冬の寒空の下,駅で口論をする青年が声を荒げる.
「もう,頭に来た」
そんな彼の頭に来たのは,「春色のジャケット」だ.薄手に仕立てられたジャケットは,若葉のような緑色が目に眩しい.春色のジャケットは,腹を立てて寒く厳しい冬を過ごす彼に春の妖精からの贈り物なんだね.
でもね,それだけを羽織っても冬の寒さは乗り切れないよ.冬の厳しさの前に跪き,そして風邪をひいてしまうんだね.

「すげえ,頭に来た」
荒くれ者の若者が道端で大声を上げる.若者の頭に来るのは当然「すげえ」だ.
八本のタカアシガニのような足を持ち,足に比べて小さなナマコのような体,その中心には大きな目が一つ,そして鋭く大きな黄色い嘴.体長は2mほど.驚くほど早く動く.
そんな「すげえ」が彼の頭に来て,被っていたヤンキースのニット帽を2本の足で摘み上げる.近くの老人は説明的なセリフで腰を抜かす
「妖怪じゃ,古代の妖怪『すげえ』じゃ.言い伝えは本当じゃった」
平安時代の陰陽師が滅ぼしたと言われる「すげえ」.荒くれ者は一言は,「すげえ」を蘇らせる.人類の存亡を賭けた戦いが再び始まる.

「モウ アタマニ キタゾ」
アメリカから日本に来て2年目のダニエルが憶えたての日本語で腹を立てる.
そんなダニエルの頭に来たのは「移ろいゆく季節」.季節の移り変わりが見せる美しさだ.八百万の神々が住む国,日本.日本の神々がアメリカ人ダニエルの眼で舞う.
春には葉を茂らす前に花を咲かせる桜,やがて花は散り葉へと変わる.梅雨に濡れて鮮やかさを増す緑色,夏の日に映える深緑,秋には黄色の葉を落とし,冬には枝に雪を纏う.
「アア アタマニ キタ デモ コノクニハ ウツクシイ」
日本に惑わされるダニエル.もう何が何だか分からない.

頭に来た人を前にどうでもいいことを考える自分.頭に来た人の怒りはいつまでも収まらない.

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