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April 01, 2011

デュラム小麦のセモリナ

スパゲティの包装の原材料名の欄に「デュラム小麦のセモリナ」と記載されていることがある.「デュラム小麦のセモリナ」はイタリアの昔話に由来して記載されている.
イタリアでは誰もが知る有名な昔話だが,日本では殆ど知られていない.

むかしむかし,莫大な財産を持ち,優雅に暮らす人の良い紳士がおりました.妻には先立たれましたが,彼には美しく心の優しい若い娘がおりました.その娘の名はセモリナといいました.
娘のセモリナに母親がいないのは寂しいだろうと思い,セモリナの父親は気立ての良い女性と再婚をしました.彼女には,セモリナより年上の娘が二人おりました.セモリナは父親の再婚を祝福し,新しい家族との生活が始まること喜びました.しかし,継母は,財産を狙って近づいてきた悪い女でした.二人の娘の性格も悪かったのです.セモリナの父親は騙されていたのでした.
セモリナの父親は,継母とその娘達に巧みに遺言書を書かされ,遅効性の毒でジワジワと殺されてしまいました.

セモリナの父親のお葬式の翌日,継母は父親の死を悲しむセモリナに言いました.
「セモリナ,あなたに残された財産なんてないわよ.全て私と娘が相続したの.もちろん,法的に全く問題はないわよ.この家にあなたのいる場所はもうないの.早く出て行きなさい」
娘の一人が言いました.
「あら,お母様.それじゃあセモリナが可哀想よ.あの荒れ地をあげたらどうかしら」
セモリナの父親が残した財産には,家から少し離れた場所に僅かな広さの痩せた荒地がありました.その土地は何年も手入れをされずに放置されていました.継母は少し考えて言いました.
「そうね.あの土地ならあげても良いわね.あんな土地に固定資産税を払うくらいなら,あんたにあげた方がいいわ.何もやらないよりも荒れ地を恵んでやった方が,逆に惨めだわね.いいわ,セモリナ.あなたに恵んでやるわ.この家を出て荒れ地に行ってしまいなさい.しみったれた土地にしがみついて生きるがいいわ」
もう一人の娘も言いました.
「セモリナ,ろくに作物も育たない痩せた土地に縋って生きるがいいわ.あんな土地じゃせいぜいデュラム小麦しか育たないわね.あなたにぴったりの土地ね.パサパサでおいしくないデュラム小麦を細々と栽培するがいいわ.そして,あなたが死んで土地の栄養になるがいいわ」
継母と娘達はセモリナに向かって高笑いをし,鼻をかんだティッシュをセモリナのポケットに無理やり突っ込んで,家から追い出しました.

セモリナは荒れ地に小屋を建て,一人で土地を耕してデュラム小麦を栽培し,収穫されたデュラム小麦を売って生活しました.しかし,デュラム小麦は,他の種類の小麦と比べて味が悪くて需要がないため,収穫したデュラム小麦は大部分が売れ残り,セモリナが得られる現金収入は僅かでした.しかし,セモリナは売れ残ったデュラム小麦を使っておいしく食べるためのレシピを考えて自分で食べ,何とか暮らしていきました.
ある日,セモリナが耕していると,土の中から見慣れない石を掘り出しました.セモリナは珍しい石だと思い,石を博物館に持って行きました.博物館で鑑定の結果,その石は珍しい隕石であることが分かり,博物館が高値で引き取ることになりました.セモリナは,少しだけまとまったお金を手にすることができました.
セモリナは,この時チャンスだと思いました.セモリナは,そのお金を使って,独学で農業技術と栄養学を学び,調理師としての資格を取り,新しい農機具を揃えました.
そして,学んだ農業技術で,収穫量を増やすため,栽培プロセスを簡略化して作業効率を高めて業務を効率化,さらに革新的なデュラム小麦の栽培手法の確立しました.また,デュラム小麦用の農機具の考案もしました.数年かかりましたが,収穫量は飛躍的にアップしました.一方で,需要の少ないデュラム小麦の消費量を増やす方法も考えました.セモリナは自分で考えたデュラム小麦のレシピに改良を加え,ポスタと呼ばれる食べ物を作りました.そして,セモリナは小屋を改装し,ポスタをメインとするレストランにしました.
セモリナがデュラム小麦で得られる利益は着実に上がっていきました.セモリナは,増えつつある利益で人を雇い,誰も欲しがらないような痩せた土地を格安で買ってデュラム小麦を栽培しました.誰も好んで育てないデュラム小麦市場は小さな市場ではありましたが,セモリナがほぼ独占しました.デュラム小麦を効率的に収穫するための栽培法,農機具は,全てセモリナが特許を出願して権利を得ていました.そのため,セモリナとのライセンス契約なしに,デュラム小麦を育てることはできなくなっていました.

セモリナの活躍を聞いても継母は動じませんでした.
「あら,惨めね.どうでもいい市場を独占したところで,私達には関係ないわね.どうでもいい人間が,どうでもいい市場を独占.どうでもいいの二乗よね.惨めさが加速するわね.ああ,汚らわしい」
娘達も言いました.
「そうよ.鼻くそみたいなデュラム小麦市場を独占するのがセモリナらしいわね.鼻くそのセモリナよ」
「デュラム小麦なんて汚らわしい小麦を私達が食べることはないし,関係ないわね.汚らわしい生き物が,汚らわしい作物を育てるなんてね.笑えるわ.鼻くその鼻から出てきた鼻くそね」
継母と娘達は鼻くそをティッシュに包み,セモリナに送りました.

小麦に病気が流行したのは,セモリナがデュラム小麦市場を独占し,ポスタのレシピを改良をしてから数年後でした.殆どの小麦がこの病気に掛り,小麦の収穫に壊滅的なダメージを与えたのでした.病気への耐性があったのはデュラム小麦だけでした.小麦市場では小麦価格が高騰.殆ど需要のなかったデュラム小麦の価格まで上昇しました.一般的な家庭では,僅かな量のデュラム小麦が手に入る程度になってしまいました.
セモリナは,デュラム小麦を少しでも安く消費者へ届けるための流通路の開拓をしました.そして,売れ残りとして倉庫にあったデュラム小麦を,安い値段で直接消費者へ販売を始めました.そして,セモリナは,ポスタを改良した食べ物をパスタと名付け,レシピを公表ました.レシピは,誰でも自由に使えるようにしました.パスタのレシピに改良を加えることも自由であり,改良したレシピを自分のレシピとして公表することも自由でした.商用・非商用に係わらず,誰でも自由にパスタを作り,食べられるようにしたのです.今まで美味しくないと敬遠されていたデュラム小麦は,誰でも美味しく食べられるようになりました.
その後も小麦の病気の流行は収まらず,デュラム小麦以外の小麦は病気のために育ちませんでした.栽培される小麦はデュラム小麦に移りつつありました.しかし,痩せた土地で育つデュラム小麦は,肥沃な土地では育ちませんでした.そのため,今まで小麦の栽培に使われていた農地は,デュラム小麦の栽培には使えません.デュラム小麦を栽培する十分な農地がないため,十分な量の小麦が収穫できませんでした.デュラム小麦の栽培に適さない肥沃な土地の価格は下がりました.
しかし,この時セモリナは,広大な面積の肥沃な土地を購入しました.セモリナは,病気の流行から取り組んでいた肥沃な土地でも育つデュラム小麦への品種改良に成功したのでした.品種改良によってできたデュラム小麦は,病気に耐性のあり,栄養価が高く,さらに品種改良前のデュラム小麦よりも遥かに味は良かったのです.
セモリナは,広大な肥沃な土地で大規模な資本を投下し,デュラム小麦の栽培をしました.セモリナは,大農場で栽培することにより低コストなデュラム小麦を実現しました.そして,低価格で大量にデュラム小麦を販売することにより,高騰した小麦の市場価格を健全な市場価格に戻したのです.
セモリナは,高品質で低価格のデュラム小麦を消費者に提供し,さらに人柄の良さから人々から慕われて「デュラム小麦のセモリナ」と呼ばれたそうです.

一方,継母とその娘達は,派手な生活で相続した財産を使い果たしていました.生活に困った彼女達はセモリナに擦り寄ってきました.
「セモリナ,さすが私が見込んだだけあるわね.あの荒地で成功することが分かっていたからこそ,私があなたにあげたのよ.私には感謝して欲しいわ」
「いえいえ,お母様.お母様はセモリナを叩きだしたじゃない.それに,あの土地をあげようと言ったのは私ですのよ.少なくとも私はセモリナの味方と言えると思うけど,どうかしら」
「いやいや,二人とも汚らわしいとか,惨めとか言っていたじゃない.セモリナのことを一番心配していたのは私よ」
継母と娘達は,仲間割れを始めそうな勢いでしたが,我に返りました.
「とにかく,私達はみんな,セモリナは苦労しなければ成功しないと思っていました.だから,あんなに厳しく当たってしまったのよ.辛かったわ.私達もセモリナと一緒に苦労したかったのよ.でも,一緒に苦労してもセモリナは成功しないと思ったのですよ.だから,私達にしかできない苦労とと思って,私達は,したくない贅沢をしていたのよ.贅沢をするのは,本当に辛かったわ」
「成功した今だからこそ,私達と一緒に住むべきなのよ.分かるかしら.私達は,あなたのために辛く当り,私たちがしたくもない贅沢したのよ.だからこそ,苦労をかけた私たちに楽に贅沢に生活する権利があるのよ」
「そうよ.これで,今までのことは水に流してね」
彼女達は,未使用のティッシュペーパーをセモリナに差し出しました.
しかし,セモリナは継母とその娘達への恨みは忘れていませんでした.
継母とその娘達に最低限の生活をさせる代わりに,作業をさせました.薄い一枚のティッシュを2枚重ねて2つ折りにし,それを100組集めて箱詰めにさせました.完成したら,箱からティッシュを取り出し,一枚一枚分離させて折り目をきれいに伸ばして元に戻す.
この作業を,毎日,1日中繰り返しさせました.
そして,セモリナは自分が死ぬ間際,彼女達と和解して財産を譲るするふりをして,すべての財産を慈善団体に寄付して彼女達には一銭も渡さずこの世を去ったそうです.
セモリナの死後,彼女達は生活手段がなくなり,セモリナを呪いながら路頭に迷って惨めに死んだそうです.そしてデュラム小麦の肥料になったということです.
余談ですが,継母の名前はティッシュ,娘達の名前はペー,パーであり「ティッシュペーパー」の名前は彼女達に由来しています.

セモリナは今でも人々から愛され続け,スパゲティなどパスタの包装に「デュラム小麦のセモリナ」と記載されて称えられています.

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